#事業承継したつもりが奴隷契約でした。
恩師の先生がご逝去されたので、その医療機関を承継したという先生がご相談にみえられました。お聞きすると数年前に承継し院長として診療をしているが何ヶ月も報酬を受け取っておられないとのこと。
遠方の方でしたが、弊社までお越しいただきお話をお聞きしました。お聞きした限りでは以下のような状況でした。
・現在はご逝去された前理事長の奥様が理事長に就任している。
・医師は院長1人。
・院長は理事となっている。
・前理事長のご逝去後、休診していたが現院長が診療を再開した後は患者数も休診前よりも増加している。
・決算書等の財務内容は見たことはない。
・顧問税理士に尋ねたところ、一方的に顧問契約を解除された。
・持分あり医療法人だが、持分の話は聞いたことがない。
・医療機器等の設備資金は院長が個人的に拠出している。
・運転資金が足りないからと数か月前から報酬を貰っていない。
・地元の金融機関や会計事務所等に相談に行ったが対応できないといわれた。
・医療機関のM&Aを専門にしている会社があると聞いて弊社に連絡してみた。
先生としては、この状況は正常なのか知りたいということと、正常でないのであれば正常なものにすることが可能か、もし不可能であれば承継を解消して大学病院に復帰したいというものでした。
つまり、状況によっては承継を解消したいというご相談でした。まずは、今回の承継の経緯と承継にあたってどのような契約がなされたのか等を確認してみることにしました。
確認して判明したのは以下のような事実でした。
・事業承継をしたという契約書の類は一切ない。
・院長は診療のみを行い、経営上の判断には参加していない。
・院長以外の理事報酬が多額であることから資金不足に陥っている。
・医療機器等の設備資金を院長個人が拠出する理由は見当たらなかった。
当事者間で事業承継をすすめている場合、契約関係に不備があったり、事業承継の手法が適切でなかったり承継条件が一方にだけ有利な場合等があるのですが、どれも譲渡側、譲受側双方が何をすべきかご存知でなかっただけだということが大半です。
双方が解決したいというご認識であれば、問題が起こって弊社にご相談にみえられた後、本来すべき承継手続きをすることで解決することが大半です。
ただ、今回のケースでは、譲渡側に善意が感じられませんでした。身内の理事報酬は満額受取り、譲受側の先生には帳簿も見せずに運転資金不足を理由に報酬を支払わない。医療機器等の設備投資についても院長個人が調達するものだと思わせることで法人借入を回避している。事業承継については少しづつ進めようという口頭での約束しかしていない。
「まるで奴隷契約みたいだ・・・」
院長の人柄がいいことにつけこんで診療をしてもらい、設備資金の借入を院長個人に背負わせ、自身の報酬はもらうが院長の報酬は後回しにする・・・、しかも承継をいつするかについては何の取り決めもしない。
最初にお会いしたときに、院長から「こんな状況がいつまで続くのか不安でたまらない」とおっしゃっていたことを思い出しました。
院長に対して判明した内容をご説明し、院長から理事長に承継をするにあたって具体的な提案を投げかけたのですが、あやふやな反応しかなかったようです。
その反応をみて、院長は承継の解消をしたいという意思が固まったそうです。
承継解消の意思を理事長に伝える際、理事長側の弁護士も同席されていたようで、今後はその弁護士が窓口になると言われたそうです。
今回のケースについては弊社から承継問題に明るい弁護士を紹介させていただき、弁護士同士でお話をしていただくこととしました。
結局、法的にクリアにすべきことをクリアにし、無事承継は解消することができました。
その後、院長は無事、大学病院に復帰することができました。
後日談ですが、承継が解消された後、件の理事長から譲受けてくれる医師を探してもらえないかとご連絡があったのですが、丁重にお断りさせていただきました。
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